2.5W    VT62/801Aシングルの製 作                      2016.08.18   Katou@刈谷
VT62シングル
                < VT62シングルアンプ >
                                               HYTRON製黒ベース球搭載時
背面
背面

VT62
HYTRON製VT62 右はマイカノールベース

銀塩の終焉とタマいじり再開
  ・本アンプは今から丁度10年前、’06年9月に完成しました。この製作記は当時の資料を元に’16年8月に作成しました。

  ・中学から大学時代は手作りラジオやアンプ、アマチュア無線が趣味の電気少年でしたが、就職後は写真とカメラに興味が移り長きに渡り数々の
   銀塩カメラを蒐集し修理し撮影することが趣味でした。 撮影にはフジフィルムの「ベルビア」を愛用しておりましたが、写真がデジタルに移行した
   ’03年頃より扱う写真屋が激減すると共に、現像にも日数を要する有様となりました。

  ・そんな折、会社の友人から「サンバレーの真空管アンプキット」を作るので支援して欲しいと依頼されました。彼は当時全くの初心者でしたが、
   見せられたキットは何と845シングルでした。 自分は真空管を取扱った経験があるとはいえ千ボルト級を使ったことは無く、ちょっとおっかな
   びっくりでしたが無事完成し、約30年振りに球アンプの音を聞かせて頂きました。

  ・再び真空管に興味を抱きWebを検索してみると、様々なHPやプログで新しい技術や考え方がいくつも紹介されており、いつの間にかブームが
   再来していました。 銀塩カメラ・写真の先も見えてきたことだし、もう一度タマをいじろうと思い至りました。

  ・我家の倉庫と押入れから昔のアンプや部品を引っ張り出しました。昔手作りしたラジオやアンプ、 書籍資料等の多くは知らない間に廃棄された
   様子ですが、それでも2A3シングルアンプや各種真空管、小物部品類を発掘しました。
      2A3シングルは学生時代に製作した唯一の高級部品使用かつステレオのアンプです。当初プッシュプルで計画しましたが、技術とお財布不足
      から残念ながらシングルで妥協したアンプです。 先ずはこのアンプを修復し手を加えることにしました。
発掘した2A3シングル    残っていた2A3シングルアンプ(⌒Y⌒)
   ※このアンプについては追って修復・改造記を掲載します。

VT62/801A Again
   ・2A3シングルを修復し色々手を加えましたが、どうしても満足する音が出せません。  昔作った801Aシングルが実に良い音だった記憶から、
   もう一度801Aアンプを作りたいと思い始めました。 ですが球は既に売却しており、アンプ本体(モノラル)も廃棄されたようで残っていません。
      再度求めようにもいつの間にか高価になっており手が出ません。

  ・’05年の年末、何気なくWebを検索していたら名古屋大須の小坂井電子がVT62(=801A)とISOタンゴEF20−14S」のセットを年末特売
   するとの広告を発見、ボーナス直後だったことから衝動買いしました。約30年ぶりの801Aアンプ再製作です。

VT62/801Aについて>
   ・VT62/801Aは眩い光を放つトリエーティッド・タングステンフィラメントを持つ直熱送信管で、2A3と同じST16サイズのST管です。創世期
   の送信管UV-202を祖とする由緒ある球で、子孫のUX-10(Ep max425V Pd max15W)を更に高耐圧・高定格化したこの系統の最終
   進化版です(Ep max 600V Pd  max20W)。  動作例はEp 600V Ip 30mA R l 7.8KΩで3.8W得られます。音は硬質かつクリアーで
   歪が少なく素直、同じ直熱送信管で大型のUV-211と似た傾向かと思います。

  ・高耐圧化のためプレート接続線はステム脇から引き出され、電極保持にはステアタイトが使われています。
VT62タイトブッシュ       並みのタマとは格が違うゼ ( ̄ー ̄)ゞ!
   ・こんな手の込んだタマですが高校時代(70年代)に買った801Aは1本2千円前後、2A3と共に学生の分際でも手が届く安価な直熱クラシック
   バルブの一つでした。
  ・VT62と801Aは同じ球です。VT62は米軍用番号、801Aは民生用番号で併記した球も存在します。(以降はVT62と記します。)

<構想>
   ・久しぶりのオーディオアンプ制作ですから、先ずは肩慣らしのつもりで奇をてらわずオーソドックスな外観・構成で行こうと考えました。私のアンプ
    制作の原点、浅野 勇氏の著「魅惑の真空管アンプ その歴史・設計・制作」を捲っていると「PX4シングルステレオアンプ」の記事に目が
    留りました。密度が高く凝縮された感じが私好みで、回路も少しモディファイすればVT62に適応できそうです。このアンプをベースにレイアウト
   と回路を詰めることにします。

     <浅野 勇氏 PX4シングルステレオアンプ>
浅野氏のPX-4アンプ              このアンプカッコ良いですから (^^;)

<主要部品・レイアウト検討>
  @主要部品
   ・出力トランスは既述のISOタンゴのシングル用OPT「EF20- 14S」です。 美しい塗装が施された立派な大型トランスです。
   ・電源トランスとチョークコイル見た目重視で出力トランスとお揃いのISOタンゴのMS-105EC-12-150を採用します。振り返ってみると
   全て新品の高級トランスを用いた我が家一高価なアンプとなりました。  〜w(゚o゚)w 〜!

   ・電源トランス、チョークコイル、出力トランスに続く部品はブロックケミコンです。  これが無いと「クリープを入れないコーヒー」になってしまいます。
   (´歳`)  ネット通販でJJ製を購入しました。 前段の電源回路用です。

   ・直熱管アンプならやはり直熱整流管を使いたくなります。名古屋大須のハイファイ堂で中古の5U4Gを見つけ購入しました。
   ・前段管は浅野氏の作例に倣ってMT管としました。作例では初段・ドライバー共にEF86ですが、本機は初段を倉庫から発掘した6BQ7に変更
   しました。 ドライバーは作例通りEF86です、ヤフオクで安価なロシア製を入手しました。

   ・シャーシは真空管保護のためボンネット付のリードMK-350(W350×D200×H160mm)を選択しました

   Aレイアウト
  ・浅野氏の「PX4シングル・ステレオ・アンプ」の配置をそのまま真似ることにしました。  大きなST16型真空管3本の前にミニチュア管を並べ
   ST管を引き立てるレイアウトです。作例に対しチョークコイルとブロックケミコンは配置を入れ替えました。熱に弱いケミコンを球からできるだけ
   遠避けるためです。

         <浅野氏 PX4シングルアンプ>                         <今回VT62シングルアンプ>
   浅野アンプ    VT62アンプ  

<回路設計>
  @出力段
   ・本機に用いる電源トランスのB電源巻き線は480V、整流管に5U4Gを用いるとEbは560V程度になると思われます。 OPTとチョークコイル
   及び自己バイアス分による減圧を考慮するとEpは520V程度と推定され、最も大出力が得られるEp600Vの動作例には届きません。
801A データ              出力は欲しいが電圧が足りない・・
  ・なるべく出力が取れそうな動作点をを探ってみますが、インピーダンス14KΩではどうにもです。 そこで7Kで検討してみます。(OPTの16Ω
   端子に8Ωスピーカーを接続) 電流を絞ると音が細くなる経験から、なるべく多い目で模索しますがイマイチフィットする点が見つかりません。
   やむを得ず出力は妥協しEp515V Ip35mA Egー37Vのポイントで進めることにしました。 出力は約2.3Wです。
   振返り : 製作当時はこれで良しとしましたが、+領域が実に勿体ない!!
   VT62ロードライン  +領域が遊んでいる・・(゚Д゚;)
   ・カソード定電流回路を採用します。 この回路は古典管の音を劇的に改善する特効薬です。 お団子になった音が分離され、もやが晴れ
   すっきりメリハリある音に激変します。 2A3シングルアンプの改良に効果があり、本アンプにも展開します。

  Aドライバー段
   ・浅野氏の事例を参考にEF86を3接で用います。 負荷抵抗は高域特性を考慮し事例より低い47K、次段出力管グリッドリーク抵抗は150Kと
   しました。 ロードラインを探り、動作点はEp215V、Ip3.6mAとしました。
   EF86ロードライン      意外と強力です。(^-^)
   ・OPT二次側からの負帰還はこの段に戻すことにします。 初段に戻すと時定数が3つになること、初段は差動なので(後述)十分に歪が少ない
   こと、この段の増幅率が約25倍あり十分な帰還量が確保できることが理由です。 帰還量はスイッチで3段切換えとします。(14dB,0,11dB)

  ・無帰還時にはゲインが高過ぎるので電流帰還を掛け約13倍に低減します。

  B初段
   ・出力管のドライブ電圧は約26Vrmsです。最大出力時の入力電圧を1Vrms、負帰還量14dBとすると全体で130倍増幅が必要となります。
   ドライバー段で25倍増幅するので本段は約5倍となります。ですが増幅率数倍程度の適当な回路を思い付きません.。そこでWebで捜して
       みると素晴らしいHPを発見!、「情熱の真空管」です。 差動回路が適合することを知り、6BQ7の差動回路で5倍増幅することにしました。
  ・「情熱の真空管」は様々な技術が分かり易い事例と共に詳細に解説されており、並みの技術書を凌ぐ正にアンプ技術図書館だと思います。 

  C電源部
  ・クロストーク低減のため、情熱の真空管を参考にL/R別電源としました。

  ・球を外した状態又は球がコールド状態で電源を投入しても各部電圧がケミコンの耐圧を超えないよう注意を払いました。キットメーカーのある
   製品は「ヒータが十分点灯してからB電源スイッチを投入ください」との注意書きがあり、回路を確認するとこの点が考慮されていませんでした。
   (^怖^)
   
   全回路図  (クリックにて拡大)
全回路図

< 内部 >
内部                            







当時は細い線材の知識が無く
0.75m2のVSFで配線しました。


右下の抵抗が後述の
トラブルを引き起こしました。


<完成後のトラブル>
   ・裏蓋を取付けるとLチャンネルの音が出ません、外しているときはちゃんと音が出ます、原因がさっぱり分かりません。訳が分からず通電中に
   付けたり外したりしていたら感電しました。 内臓部品がシャーシから飛び出していないか確認しましたがそんな部位はありません。よ〜く裏蓋
   を見てみると・・・分かりました! ゴム足取付けビスの先端が抵抗と接触します。抵抗の位置をずらし解決しました。
   裏蓋          これが原因でした コレ゙(゚−゚;)コレ 

   ・完成後暫く問題なく稼動していましたが、ある日電源を投入するとヒューズが飛びました。 250V両波整流回路のシリコンダイオードがON通
   破壊しています。 古い日本インター製の10D10ですが、耐圧は1000V(1A)で規格内での使用です。半導体の初期故障かな??と思い
   交換しましたが数日後に再びヒューズが飛び、また10D10が故障していました。 半導体も長期保存品は経年劣化するのでしょうか。 現行の
      1N4007に交換し解決しました。
  
<試聴等>
  ・先ずグローバーワシントン・ジュニアの「ワインライト」等を聞いてみます。 各楽器が一塊になったお団子状態の音です・・これはアカンな〜・・
    段間コンデンサーには赤茶色のフィルムコンデンサーを使っていました。2A3シングルの改造に使い、イマイチだったので取り外したものです。
   指月のポリエステルフィルムに変更すると音ががらりと変わりました。各楽器の音がきちんと分離していますし高域が素直に伸びます。

  ・段間コンデンサー交換により十分満足できる音質となりました。2A3シングルと比べ遥かにクリアで歪も感じません。 初段に用いた6BQ7は
   直線性とは無縁のテレビ球ですが、差動回路の効能により十分オーディオに使えることが分かりました。

  ・記憶の801Aはシャープで金属的な硬い音でしたが、完成した本機は異なりました。 クリアですが金属的な硬さは全く無く、すっきりした好み
   の音でした。電流をたっぷり流したことと定電流回路の効果だと思います。 満足な音が得られましたのでこれで完成としました。

  ・本機を用いて様々なコンデンサーを試しました。結果、音質が良く安価な指月がベストとの結論になり、以降私の全てのアンプで使っています。
段間コンデンサー               コスパ最高¥(゚∀゚)♪

   (振返り : 今このアンプの音を聞くと、その後の作に比べ物足りなさ感じます。
            線が細く、飛出して来る様なエナジーを感じません、馬力感不足でしょうか。 ちょっと手を加えようかな〜


<総合特性>
入出力特性(L/R)
入出力特性(L/R NF時)
周波数特性 L
※NFB0時 : ドライバー段で-6dBのゲイン調整あり
周波数特性 R
※NFB0時 : ドライバー段で-6dBのゲイン調整あり
歪率 L 周波数特性 R

        残留雑音 L:0.58mV  R:0.65mV
     DF : L/R共10@NFB L:14.2dB R:13.4dB


       <使用計測機器>
         オシレータ:KENWOOD AG−203
          電圧計 :KENWOOD VT−165
          歪率計 :SHIBADEN CR−9B

  <入出力特性>
    Lは2.8W、Rは2.3Wで波形のクリップが始まります。
    L球の方が元気です。

  <周波数特性>
    30Kc/sにて0.5dB盛上り、波形も僅かにリンキングが出ます。
    音の好みから補正無しですが、安定しています。

  < 歪  率  >
    負帰還量の割には低減できていません。
    今後手を加える折に見直すことにします。
                                                              
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