6G-B8他共用 30W級 CSPPアンプの製作                      2012.01.30   Katou@刈谷
CSPP-universal_6G-B8.jpg CSPP鳥瞰.jpg
       写真は6G-B8装着時

KT88装着
       写真はKT88装着時
  
<CSPPとの出会い>
   ・私が初めてCSPPを知ったのは’75年に発売されたラックス社のLUXKIT A3000でした。 故 浅野 勇氏著 「続・魅惑の真空管アンプ」には
    A3000の回路が記載されていましたが、全く理解出来ず、興味は新型出力管「8045G」だけでした。
魅惑の真空管アンプ
    故 浅野 勇氏著「魅惑の真空管アンプ」(左 表紙)、 
            「続・魅惑の真空管アンプ」(右 裏表紙) 
続・魅惑の真空管アンプ
         「続・魅惑の真空管アンプ」記事
     「真空管アンプキット紹介 ラックスキット A3000」
                               <両書は私の真空管アンプ作りの源流です。>

<アンプ作り再開>
     ・30年近くアンプ作りから離れておりましたが、偶々立ち寄った名古屋大須のハイファイ堂で昔探し求めた3C33発見!衝動買いしたことから
      アンプ作りを再開、Webで情報収集中に見つけた手作りアンプの会にも入会しました。 
3C33アンプ記事
   「続・魅惑の真空管アンプ」記事 3C33ステレオアンプ 
     昔この記事に魅せられ3C33を探しました。
ユニバーサルアンプ「隼鷹」
      手作りアンプの会 ’10年冬のお寺大会出品
   ユニバーサルアンプ「隼鷹」にやっと発見した3C33を搭載
              
<CSPP製作の発端>                
    ・3C33を載せる為に作ったアンプが手作りアンプの会 ’10年冬のお寺大会に出品したユニバーサルアンプ「隼鷹」です。
   本アンプは全段差動で非常に爽やかな音に満足していましたが、「もう少しスケール感が欲しい」と感じ始めました。
     ・10年夏の大会で会員の方が製作されたAB級?のCSPPを試聴させていただき、「これだー!」と思いました。 すっきりした音と雄大なスケール感
       が見事に両立しています。
     ・ 同年冬大会のオークションにARITOさん御提供の特製CSPP出力トランスが出品されると知り、「これは落札して製作しかない」と思い参加し、
    幸運にも入手しました。
ARITOさん特製OPT
        お寺大会で入手した ARITOさん特製 CSPP出力トランス
OPTスペック
     仕様書(ARITOさん資料転用)

<概要構想>
   ・出力30〜40W程度のAB1級とします。 私が使っているアルティック604−8Lには有り余るパワーですが、馬力でスケール感がどの様に
   異なるのかを試そうと思いました。
   ・CSPPはAB1級でもスイッチング・トランジェント歪が無い分高音質と大出力の両立が期待できます。 出力管は手元の6G−B8、KT88、
   KT66、6L6GC、EL34、EL38を活用します。無調整で差替え可能にするため、球とセットでバイアス設定ユニットを交換する方式とします。
   ・各球のピン接続は一部異なるので、バイアス設定ユニットにピン接続切換え機能も組込みます。
   とりあえずオーディオ球専用ですが、いずれTV球や送信管に浮気する可能性が高いので4段切換えSG電源を組込みます。 
   SG電圧はバイアス設定ユニットで切換え、ネイティブ/UL切換えスイッチと併用することで設定とします。

<使用部品、全体イメージ>
  @大物部品
   ・シャーシーは使い慣れたリードのMKシリーズから選択します。この規模が収まる最小サイズのMK-350(W350mm×H40mm×D200mm)
   を選択しました。 ボンネット付の薄いシャーシーは私の好みに合いますし、比較的安価です。
  ・電源トランスはオークションで入手したLUXの8A70Bを用います。要求に見合う350V280mA巻線を持つ立派なトランスですが、
   出力管用のヒーター巻線が無いため不人気の様で、3千円ちょっとで落札出来ました。 別にヒータートランスが必要ですが、容量の割りに
   フットプリントが小さく(積厚は厚い)比較的コンパクトな本機にマッチします。
   出力管のヒーターは春日無線の小型ヒータートランスB6X6320(6.3V 1.2A MAX2A 2回路)2台で賄うことにします。
       6G-B8は6.3V 1.6Aなので少々過負荷ですが、バラックテストの結果、波形は歪みますが異常発熱は無く、実用可能と判断しました。
    もちろん自己責任です。
  ・チョークコイルはノグチのPMC1030H(10H300mA)を購入しました。
   半導体フィルターは高性能・安価ですが、私の様な年寄りは出力トランスと電源トランス、ブロックケミコンそれにチョークがでででーんと軍艦の如く
   揃い踏みでないと気が済みません、見た目の問題です。
  ・ブロックケミコンは手元に有った500V100μF×2 3個を用います。

  Aレイアウト
  ・今回のアンプは固定バイアスですので、出力管は熱暴走防止に留意しレイアウトします。
   出力管を4本直線上に並べるとカッコ良いですが、2本づつ左右に振り分け、中央2管の過熱を防止します。
   出力管の間隔を極力広げると共に出力管の電子走行面(フィンの有る最も放熱が大きい面)を出力管並びと直角方向に配置します。
   出力管ソケットを沈めると共に十分な放熱穴を設け通風に留意します。
  ・磁気干渉回避のため、電源トランスを前面中央、出力トランスは後方左右とし、後方中央にチョークコイルを配置します。
   発熱が大きい出力管は前面左右振分けし、ブロックケミコンは出力管の放射熱を避ける又は十分離れた位置に配置します。
   ヒータートランスはチョーク下スペースに格納します。シャーシー深さ不足なので小型薄型シャーシーを重ねて深さを確保します。
  ・ドライバー管は各チャンネル1本、初段は半導体(FET)とします。
   電源トランス8A70Bのヒーター巻線は@6.3V 1A A6.3V 0.15A B60V 150mAの3つです。
   @6.3V 1Aをドライバー球に分配すると、残り2巻線では選択できる球が制限されます。
   それならば初段をFETとします。 ドライバー段と直結にしてもドライバー段のB電圧ロスを低減できます。
 レイアウト検討
           グラフ用紙でレイアウト検討中
       背面外観
               完成機(背面鳥瞰)
    ヒータートランス配置
              ヒータートランスの配置
    ヒータートランス格納部
   チョークコイル下の小型シャーシー内にヒータートランスを配置

<回路設計>
 1.電源部
  @B電源
  ・出力管とドライバー管用電源です。
  ・B電源は左右チャンネル共通のπフィルターのみとしました。クロストークは増加しますが、チョークを2つ載せるスペースが無い、全段PPなので
   実用十分なクロストーク性能が得られる、が理由です。

  AC電源
  ・電源トランスの60V巻線を半波整流し、トランジスターとツェーナーによる簡易安定化電源とします。 さらに、バイアス電圧調整用半固定抵抗が
   断線もしくは接触不良となった場合でも出力管を保護する目的で、出力管ごとに専用トランジスターによるバイアス電圧調整回路を追加しました。
   万一半固定抵抗が断線した場合はバイアス電圧がマイナス最大となり、出力管を保護します。


  BSG(スクリーングリッド)電源
  ネイティブ/UL切換えスイッチをULに切替えた時のSG電源です。 (ネイティブに切替え時はプレート電圧と同じ400Vのみです。)
  ・B電源から分技し、MOS・FETとツェーナーにより簡易安定化します。36Vツェーナーの直列本数をバイアス設定ユニット
コネクタで切換え、
   各々約400V(B電圧=非安定)、355V、247V、211V、139Vの5種を選択可能とします。       バイアス設定ユニット
     
SG電源     バイアス設定ユニット
  C初段電源
  ・初段2SK30A差動回路用に+50Vと−9Vを用意します。
   +50Vは60V巻線を半波整流、C電源と同様トランジスターとツェーナーにより簡易安定化とします。
   −9Vは6.3V巻線を2組直列にした12.6Vを半波整流後、−9Vの3端子レギュレータで安定化とします。
    ※+50は少し高すぎました。 音質的に+40〜45V位が適当と思われます。

 2.増幅部

      ブロック図
                
    
アンプ部回路
  @初段
  ・使い慣れた2SK30A差動とします。 GRランク20本からIdss=3.1mAの2ペアが得られました。
   各々の2SK30A-TMに1.5mA流す設定とします。
   負荷抵抗は利得と周波数特性の兼合いから16KΩとし約16倍増幅します。  負帰還量はボリュームで可変式とします。


  Aドライバー段
  ・CSPPの出力段増幅率は2ですので、5KΩ負荷で30W出すとすると、単純に必要ドライブ電圧は√((30×1250)/2)=約137Vです。
   入力電圧1V、負帰還10dBで最大出力を得るには初段+ドライバー段で約410倍増幅する必要があります。
   初段の増幅率は16倍ですから、ドライバー段では27倍程必要です。
   また、出力段のグリッドリーク抵抗はAB級運用、様々な球の対応を考慮すると上限100KΩです。
   ドライバー球の必要条件は出力管グリッド抵抗100KΩで最大出力137V以上、増幅率27倍以上、ヒーター電流は6.3V 0.5A以下の
   双3極管となります。
   この条件に見合う球はEpmax330Vでμ47の5965しか見当たりません。 直線性は悪いですが、とりあえず5965で進めることにします。
  ・最終的に5965はハウリングを拾い易く、想定より出力が得られなかったことから6414に変更しました。
   6414のEpmaxは200Vですが、今のところ問題なく使えています。 負荷抵抗は大きめの43KΩとし約32倍増幅します。
  ・当初、B電源を出力管のプレートから襷がけで供給するブートストラップでしたが、音色の好みからブートストラップなしに変更しました。
    ブートストラップを使用する場合は定電流用2SK30A-TMとパラにバイパスコンデンサー(50V 330μF)を挿入します。
   各ユニット毎電流は約4mAに設定しました。 

  B出力段
  ・出力段はネイティブとULの切換え式とします。スクリーングリッドの回路を切換えるスイッチをシャーシー上に設けました。
   偏光管等スクリーン電圧が低い球はULで使用します。バイアス設定ユニットで電圧を切換えます。
                     SG電圧選択一覧表
  ・今回使用する各球は1ピンの機能が異なるのでバイアス設定ユニットで切換えます。
            1ピン接続
  ・グリッドリーク抵抗はドライバー能力を考慮し、KT88が出力35W以上のAB級で使える上限の100KΩとしました。
  ・各カソード側コイルとアース間に電流測定用抵抗10Ωを入れました。  1V=100mAです。
  ・固定バイアスですから、出力管の暴走防止保護回路を組込むことにしました。バイアス回路の故障、カップリングコンデンサーのリーク等
    により出力管の電流が過剰増加した場合にB電源を遮断し、出力管と出力トランスを保護する目的です。
    電流測定抵抗の両端電圧を監視し、電圧が一定値を超えるとリレーが作動しB電源を遮断する仕組みです。
   2SK30Aはペア選別落ちのIdss1.5mA前後を使用しました。 沢山余っているので出力管ごとの電圧検出回路としました。
    作動電圧は2SK30Aのドレイン側の10KΩ半固定抵抗で設定します。 私は1.3V(=130mA)に設定しました。
   ニッカド電池をフル充電すると約1.3Vですので、これを10Ω両端に接続し、半固定抵抗で丁度リレーが作動するポイントに設定しました。
       保護回路
  C全回路図(クリックで拡大)
    全回路図_縮小版
<総合特性>         出力管6G-B8 UL接続選択 ドライバー段ブートストラップ有り時の特性です
入出力特性(L)
入出力特性(R)
周波数特性(L)
周波数特性(R)
歪率(L)
歪率(R)
         残留雑音 
  
残留雑音 NF無しではR CHの雑音が気になります。 ヒータートランスからの回り込みですが解決できていません。 
測定状況
  測定中の本機  アンプ下は芝電の手動歪率計(’70年製)

<試聴>
  ・スピーカーはALTEC 604−8Lで最初はジャズの名盤デイヴ・ブルーベックカルテットのTIME OUTを聞きます。
    テイク・ファイブのドラムセッションではシングルの様な素早い立ち上がりとすっきり感が特に素晴らしい。 

  ・CSPPの特徴は音場の雰囲気です。 臨場感と言ったら良いのか表現し辛いですが、従来のDSPP、シングルでは感じることができなかった
     独特のリアル空間で、人の呼吸や鼓動までもが雰囲気として伝わってきます。
   次にケニーGです、盛り上がる重低音の中にソプラノサックスが輝いています、素晴らしい。 特に低域の雰囲気はCSPPならではです。
   CSPPは「雰囲気を伝送できるアンプ」だと解りました。 超三、定電流(差動含む)、OTLとは異なる第4の極と言って良いかと思います。

  ・馬力感を意識してAB1級としましたが、やはり数ワット級アンプと比べエネルギーの差を感じます。
   ボリュームを上げる程に重低域及び高域のパルス音が強いエネルギーを持ってすっ飛んで来て部屋中に拡散・浸透します。
   但し、小音量のBGMレベルでは差異を感じません。
   
   ・今までの拙作アンプは何れもNF量を変えると音の傾向が変わりました。 ところが本機は20dBまで深くしても傾向が変わりません。
   これもCSPPの特徴なのか今後検証して行きたいと思います。

  ・ブートストラップ有無で音はかなり変化します。 ブートストラップ利用時はドライバー段の定電流FETにパスコンを追加します。
   パスコンが無いと寝ぼけた音になります。
   最終的に好みからブートストラップを廃止しましたが、更に組合せで音がどう変化するかを検証して行きたいと思います。

   ・本機は’11年冬のお寺大会に参考出品しました。 6G-B8の調子が悪くなったので急遽新品のKT88を挿して持込ましたがエージング不足
   なのか期待外れの音になり残念でした。 また機会があれば本領発揮状態で聞いていただきたいと思います。

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