鳥羽パールレース2005参戦記

        チェスナット艇長 佐藤公治


【はじめに】
 今年も鳥羽パールレースが終わった。今年は完走できずリタイアとなった。浜松市の沖合で大風と大波となり、利島方向からの風に翻弄された。帰って振り返り天気図、航跡図を見てみた。7/22の23:02タックしたあと御前崎に突っ込めばもう少し波は治まったか。20ノット以上の風と2-3mのうねり、コースは登りで朝まで耐えれば、後はがんばれたか。台風6と7号が発生し、天気予報より前倒しに海象がくずれた。クルーの船酔い、疲れぐあい、帰りの回航、乗員艇体共に安全に帰ることを考え7/22の23:07リタイアを決断した。
 リタイアは恥ずかしいことか。どんな海象でも乗りこなせなければ真の船乗りではない。しかし我々のヨットは趣味の世界である。ヨットで死んではいけない、大怪我をしてもいけない。もっと楽に走らせるすべがあったのか。経験不足か。あきらめる判断は早すぎたか。2回目とはいえ、半年掛けて準備してきたのがこれで終わって良いのか。航跡図を見ると、リタイアした地点からあと85マイル登りを耐えられれば利島にとっつけた。1ポイントリーフとNo3ジェノアで6ノットのスピード。14時間がんばれば利島。これ以上風が上がるとストームジム。波に叩かれ14時間か、、、。これだけ体力を消耗して、江ノ島に入り、ほぼ同じメンバーで帰りの回航にすぐ出られるか。下田入港どころではない。どんどん台風が来る。天気は崩れる一方。リタイアを決めて残念無念と思う一方、心は楽になった。スタート前から痛かった胃も治った。早速、振り返ってみよう。

【パール参戦準備】
 昨年初参加してあまりにも順調で楽しめたので今年も参加することになった。JSAFのカテゴリーSR3を取得。浮器などを購入し船検を沿海に。国際VHFをつけた。メンバーはなかなか休めない。家族をそっちのけで夏休みのすべてをパールレースへとは、よっぽどヨットが好きな人である。レースと回航に乗るのは長丁場で大変なことだ。

【五カ所へ回航と準備】
 7月20日水曜、天気は最高、風は北西で少なめ。いよいよ鳥羽パールレース2005が始まった。いつも長期休みの前は死ぬような忙しさ。朝5時集合、5:30に出港、北西の風8kt,アビーム、フルメインとNo.2、7時はまだ涼しくお湯を沸かしカップスープ、コーヒー。師崎はいつものように三角波で気持ち悪い。航路はエンジンで抜けて神島を越えた。ケンケンで1mほどの鰆(さわら)が釣れた。そこに鮫が。まるでヘミングウェイの「老人と海」。天気良し。大王崎、布施田、全体に風無し。
 

そんなのんびりしたときに海の上で仕事場から電話。なかなか精神的にリフレッシュできない。14:30志摩ハーバー着、早速ダイバーの藤沢さんに船底掃除を御願い。デッキを洗い、かたづけ。午後4時にはマリーナの部屋へ、和子の車が着いた。村上さん、敬太が合流。シャワーを浴びて冷えたクーラーが気持ちがよい。五時半から割烹「やまぐち」へ。大事に持ってきた鰆は「料理できません」とゴミ箱へ。こんな事なら鮫に食べさせてやれば良かった。鰹の刺身と鯛の煮付けなどおいしい料理をたらふく。長尾さんも到着した。うちの家族は志摩地中海村へ。疲れてぐっすり睡眠。

 7月21日朝九時から準備。買い出し、果物、とりあえずの氷、昼弁当、マリーナへ。時間がゆっくり流れる。外へ出ると汗がどっと出る。ちょっと昼寝。体力温存。出艇申告、艇長会議、安全セミナーに出る。エントリーは41艇、ORCは1杯出ず36艇。緊張は高まる。胃腸の調子が悪い。午後6時からレース前パーティー。いつもより艇も少なく盛り上がりに欠けた。8時には終わり宿へ。

【いざ出発・レース本番】
 7月22日金曜朝8時半、ブィーブルオーシャンクラブ志摩ヨットハーバー五カ所を出港した。一列にヨットが出て行く。錚々たる風景。マスコミのカメラも桟橋に。午前10時、自衛艦のホーンでスタート、上スタートとなり自衛艦に当たる船も。ゼネリコでスタートし直し。10:20スタート。ヘリコプターの取材。いかん、ちょっと出遅れた。南西の風でアビームスタート、しばらくしてスピン。ごぼう抜き。スキッパーは1時間交代。クルーも1時間ローテーション。
 神の島を11:40と快調に回航。神の島と利島を結ぶラムライン上を走る作戦。スピンランニングは早く、トリムは20分で交代。どんどん抜いていく。しかし思ったより風が早く落ち始め、3時からぷかぷか状態。回りも船だらけ。再スタートの様相。スピンを張ったりNo1ジェノアにしたり。

 早く行かないと帰りの台風がとか、前に風が回る前に利島へ近づきたいとか、思ううちに前から風が。17:30頃から風が吹き始めた。東、利島方向からの風。登りとなった。どんどん風は上がり、No1,2,3とジェノアを変えていった。ラムラインより内側に入った。風は15ノット。浜名湖に向かっていた。回りの船も見えなくなった。7時には暗くなった。波も出てきた。台風のうねりだ。エンジンを掛けたいがエアーをかみそうで止めた。

 午後10時前、タックをして沖へ、どんどん風は上がり、メインの1ポイントリーフへ。前のしぶきを浴びるワッチとテルテールライトは辛い。うねりも大きくなった。皆も静かになり、船酔いし始めた。このうねりはひどい。船はピッチングして気分悪くなる。辛いレースとなった。海上は波しぶきで何も見えない。テルテールライトの照らすジェノアの風見と見かけの登り角など計器を見ながら帆走。潮で眼鏡が見えにくい。艇速は6-7ノット、風が25ノットを超えてきた。利島まで直線で70マイル。夜が明ければ何とか走れる。がんばろう。しかし状況は悪くなるばかり。月も出て無くて暗い。幸い雨は降っていない。

 この状況で、フィニッシュできても帰ってくる体力があるか、総合的な判断が必要だ。台風の様子、今後この海象はどうなるのか、天気予報、天気図が見たい。こんな時、ハンディGPSの電池が切れた。オキシライドの高級なのを買ったのに12時間しか持たない。
 

「どうしよう」、篤郎、中村さん、木村さんに囁いた、「うーん」。長尾さんはとにかく行って船を置いてこようと。皆の疲れ具合、海象の悪化、良い方向に向かうと思えない。余裕のあるうちに帰らないと、帰りのフリーの風も大変だ。

【リタイア】
 自分ではリターンを考え、皆に問いかけた、「風が25ノットを超えて、今後も悪くなる。明日朝までがんばるか、ここでリタイアするか。皆、どうする?」。皆、大なり小なり船酔いしていた。「船酔いして辛いでーす」、「ガンバレマース」との声も前から聞こえた。
 23:02リタイアを決定した。タックをしてベアーをした。船はプレーニングをし始めた。斜め後ろから大波、風は23から25ノット強、陸へ近づけばもう少し治まるだろうと考えた。

【帰るのも大変】
 リタイアを決めても、それからがまた大変。後ろからのフリーの風は、梶が難しい。ワイルドジャイブ、バウ沈のおそれがある。何回かに一度は大波が来る。しかし後ろを向いてハンドリングできない。当て梶。No1のリーフとNo3ジェノアのままフリーで浜名湖沖を目指した。
 デッキの人の肩を超える大波が来た、ロールオーバーしそうになった。コックピットに海水が貯まった。早く出さないと船が不安定になる。ハッチのところに長尾さんがいて船内への浸水は免れた。エンジンキーが流された。幸い排水孔に挟まっていた。これからは流れ止めを付けておこう。速度GPS16.5kt、対水メーター17.7kt、風速30ktオーバー、最高新記録となった。早く夜が明けないか、船が持ちこたえてくれるよう祈った。

実は3回危なかった。<-ここをクリック

【やっと落ち着き】
 浜名湖の沖10マイル程度まで来たら少し治まってきた。掛塚灯台沖の浮標にぶつかりそうになった。夜が明けるとうねりは残っていたが、風は20ノットを切るようになった。ケンケンを始めた。鰹が2匹釣れた。長尾さんが見事に締めてクーラーボックスへ。皆疲れてお休みタイム。太陽は出ず曇り。涼しい。

【帰港】
 7/23の13時ホームポートへ着いた。マリーナへ帰ると伊藤さん、石川さん、メーティアとマリーナの人が出迎えてくれ、舫を取ってくれた。BBQヤードへ入って一服。牧さんからサザエなどの差し入れ、ビールが美味しい。さっきの鰹を木村さんがさばいてくれ刺身と焼いて頂いた。
 ヨットの中も外も、セールもシートも、すべて塩出し。天気悪く乾かない。またいつか乾かしに行く必要有り。シバーで飛んだのか、No3ジェノア2,3,4のバテンがない。

【片づけ】
 7/23の夜は、ぐっすり9時間睡眠。7/24朝からカッパなどを洗い、後かたづけ。航跡図の整理、デジカメの整理、天気図を見た。篤郎とMessengerで話しながらコースの反省。JSAFのホームページで速報、7/24の10時現在24杯フィニッシュ。暫定結果ではあるが36杯中、8杯リタイア。あと5杯走っている。ヘリオス(パイオニア10、五カ所では隣のバースだった)やDANRYU(中2の子が乗っていた)の名前がない。がんばっているのだろう。すごいな。一方、ナルミやDancing Beansなど35フィート以下は軒並みリタイア。

【最後に】
 このレースイベントにも多くの人に助けてもらった。陸上サポート、伊藤さん、石川さん、そして和子。レース委員会の皆さんに感謝。シャングリラの伴走も大変だったろう。
 夏のイベントがひとつ終わった。チェスナットはまた成長した。楽しく乗るがモットウ。いいメンバーが集まっている。安全第一。それにしても今年は五カ所レースもリタイアしたなぁ。

【参加メンバーリスト】 順不同
 艇長         佐藤公治
 ナビ・無線・ヘルムス 佐藤篤郎
 フォアー・メイン   村上照幸、中村雅紀、長尾専一
 ミドル・ジェノア   水野和久、木村修、佐藤洋一
 船内         佐藤敬太
 回航・陸上応援    伊藤直也、石川佳世子、佐藤寿洋、藤沢二郎
            佐藤和子


 ヨットチェスナット6お疲れ様、艇体乗員無事で何より。よく頑張りました。
 7/23の夕方、解散間際に木村さんから「来年も出るよね」って。
 どうする?