初の防水アマチュア無線モービル機FTM-10Sをヨットに設置してパールレース参加

チェスナットセーリングクラブ・JR2YECパ・ケッタハムクラブ

佐藤公治JR2TDE

【はじめに】

 待ちに待った防水設計のアマチュア無線機が2007年6月発売になりました。FTM-10S、144MHz10W・430MHz7Wのモービル機です。フロントパネル・本体共にIP-57適合で水深1mに30分間没しても正常な動作が可能な防水構造に適合した防水・防塵仕様です。さらにFTM-10シリーズの受信部は、AM/FM放送バンドとアマチュア通信専用に独立した2系統の受信部で構成されています。以前から海上でAM/FMラジオを聴きたい時がありましたが、ポータブルラジオは今一感度が悪く不満でした。FTM-10Sは贅沢な回路構成により、広帯域受信でありながら感度抑制特性などの通信機としての基本性能も大幅に強化されています。この無線機をいち早く手に入れパールレースという太平洋を渡る外洋レースに参加するヨットに設置して活用しましたので設置から運用について報告します。ただし、アマチュア無線はあくまでも個人的な運用となるものでありレース・コミッティは運用に使用していません。

【パールレース】

 1960年に始まり48回を迎えた太平洋を渡る外洋ヨットレースは日本のヨットマンにとって憧れのレースです。また小さな冒険でもあります。毎年7月の下旬の金土日の3日間のレースです。昔は鳥羽から油壺のコースでしたが最近は三重県の五ヶ所湾から伊豆七島の利島を回り神奈川の江ノ島に向かう180マイル、350kmの外洋レースです。大体40時間ぐらい掛かります。2007年のパールレースに参戦しました(図1スタート前、五カ所湾ヴィーブルヨットクラブにて)。コースは五カ所湾をスタートし神ノ島を回り御前崎の沖合15マイルを通り利島を回り江ノ島へゴールします(図2チェスナットの帆走コース)。AM局は夜間を中心に受信できますが、FM局は受信できません。自衛艦が伴走し国際VHFにてロールコールなどをサポートしてくれました。

【チェスナット6】

 ヨットチェスナット6は2000年に進水したヤマハ発動機から発売されているY30SNという30フィートのヨットです。チェスナットセーリングクラブは1974年からヨット活動をしていたチェスナットメンバーの発展形です。愛知県蒲郡市の名鉄西浦マリーナ(ホームポート)を中心に活動しています。主に土日に草レースやBBQ(バーベキュー)、近場のクルージングを行っています。三河湾内は携帯電話が使えます。また2004年に鳥羽パールレースに国際VHF用のプロの無線機を設置したため、これまではアマチュア無線機は搭載していませんでした。

【FTM-10Sの設置】

 防水とはいっても海水の常に降りかかるヨットの屋外に設置するのは気が引けるので、屋内のチャートテーブルに設置しました(図3チャートテーブル)。チャートテーブルにはJR2ODZ佐藤篤郎作製のsnaviシステムがノートパソコン上に動いています。これはハンディGPS、SILVA航海計器の風向風速水速等共にデータ解析できます。アンテナはマストトップに1/4λのGP(図4)。アンテナ切替器でIC-M501J船舶用国際VHF/FM無線電話装置と共用しています。スピーカーはヨット内とヨット外に設置しました。本当はステレオ用の出力ですがスピーカー出力は8Wあり拡声器にも使えるので屋内外で楽しめるようにスピーカーを設置しました(図5)。iPodや携帯CDをつなげるよう接続ジャックをチャートテーブルに出してあります。

【オプション】

 本体のほか防水マイクMH-68B6J(DTMF無し)、これをフロントパネルにつけるためのアダプタマイクロフォンジャック(フロントパネル用)MEK-M10が必要です。防水スピーカーMLS-200-M10(IP55相当)大出力外部スピーカー(8W)二個を購入しました。

【運用】

 広帯域受信の機能もありますので国際VHFの150MHzバンドも受信できます。常に16chをワッチしたり74Ch(JSAF日本ヨット連盟のチャンネル)を常時プライオリティに受信したりできるのは安全面でも有効でした。送信はアマチュアバンドのみです。我々のコースが陸から離れていたので陸上とはアマチュア無線では交信しませんでした。4時間毎のロールコールはもちろんプロ無線機(25W)で本部船と行いました。

 天気通報はFTM10Sで受信できますし、常時16chをワッチしながらFMを聞いてリラックスできます。帰りの回航では陸沿いのためFM静岡やFM浜松を聞きながら帰ることができました。

 アマチュア無線の待ち受け受信時にAM/FM放送の受信やiPodなどによる音楽の再生できるデュアル受信機能付きです。中型コネクタを付けておいて自分のiPodをつけて楽しむことも出来ました(図6)。いつもはローカルのFM局をBGMに、VHFCh16を聴取しています。

【良い面】

 コンパクトフロントパネルですが、大型多機能ダイヤルと大型キーを採用しているので、セーリンググローブをしたままでも簡単に各種の操作ができます(図7)。しかしコンパクトな分、組み合わせのコマンドが多くボリュームや周波数ダイアルも兼用のため、はじめは戸惑います。

 消費電流受信無信号時約0.5A、送信定格出力時約2.5Aと少ないのはバッテリー運用のヨットとしては助かります。

 ディーゼルエンジンの外部ノイズにも強くエンジンを回しても受信機能が変化することはありませんでした。

 高価な大型アルミダイキャスト製ヒートシンクをサンドウィッチ構造本体全体が放熱器となり、十分なヒートシンクの体積を確保しています。このサンドウィッチ構造により振動などの機械強度も従来のモービル機に比べて大幅に強化され、波に突っ込むヨットの激しい振動にも耐えられるものと思います。

【要望】

 流行のワンセグが受信できると完璧です。天気図はやはり気象通報の音声よりテレビの気象情報など図の方が分かりやすいです。モニター接続端子が付いていると良いと思います。またパケット端子があるとGPSを継いでAPRS(Amateur Radio Position system)が出来て面白いと思います。尚スタンダード製なのでWIRESは繋げます。

【今後の発展性】

 周囲の騒音レベルが上がると自動的にスピーカーの音量を上げるAFオートコントロール機能があり、内装エンジンを掛けてうるさくなった時に音量が変わり便利です。

 また電源電圧表示機能は有効です。ヨットは常にはエンジンを止めているのでバッテリー管理は重要です。

 今回は利用できませんでしたがBH-1防水仕様(IP55相当)Bluetoothヘッドセットを使用するともっと便利かもしれません。ハンズフリー運用が可能です。ワイヤレスヘッドセットをオプションで用意されています。

 インターコム機能は大きな船では離れているフォアデッキのクルーと後方のスキッパーが連絡を取れて便利かもしれません。

【まとめ】

 FTM10Sはラリーやバイクなどのアウトドアのモータースポーツのみならずマリンスポーツの分野でも待ち焦がれていた無線機といえます。水がかぶった後も使える防水無線機は頼りになります。プロ無線機が防水防塵、そして衝撃に強いため高価なのに比べ、よく数万円でこのアマチュア無線機が出来たものだと感心すると共にスタンダードにエールを送りたいと思います。

 今回のコース上で大王崎近く、御前崎沖近く、利島近く、大島近く以外では携帯電話は圏外でした。プロの無線機は搭載していますが、別の交信手段がバックアップとしてあることで安心感も得られました。

【参考】

1.   ハム”マニア”とヨットレース CQham radio 8;298-299,1991

2.   外洋ヨットマリタイムモービルのすすめ モービルハム 10;117-121,1991

3. http://www.katch.ne.jp/~kojisato/yacht/yacht.html

図1 スタート前、五カ所湾ヴィーブルヨットクラブにて

図2 チェスナットの帆走コース(蒲郡西浦、五カ所、江ノ島、御前崎、蒲郡西浦)

図3 チャートテーブル、筆者オペレート

図4 マストトップのアンテナ

図5 防水スピーカー

図6 iPodも聞ける

図7 操作性